伊根の舟屋
若狭湾に面した伊根浦は、日本海側には珍しく南に開けた静かな入り江であり、
東、西、北の三方を山に囲まれている。
伊根湾と日本海の接するほぼ中ほどに、
自然の築いた防波堤のように緑濃い青島が浮か んでおり、
伊根湾の入り口を二分している。しかも、
伊根湾の三方を囲んでいる急傾斜の硬い岩山は、
そのまま海に落ちて深い淵をつくっており、波を起こしにくい地勢を形成している。
また、伊根湾においては潮の干満差は極めて小さく
(年間50m程度)、静穏度の高い天然の良港といえる。
およそ350世帯で構成される伊根浦の集落は、
延長約5qにおよぶ伊根湾の海岸沿いに連続して細長く形成されている。
伊根浦を特徴付けるのは、海岸沿いに連続する舟屋群であるが、
明治13年(1880)から昭和25年(1950)までの鰤景気によって、その多くが
瓦葺二階建に建て替えられた。
また昭和6年(1931)から約10年の歳月を費やして行われた府道伊根港線の拡張工事は、
総延長約5qにわたって幅員4mの道路を主屋と舟屋との間に敷設するものであり、
これによってそれまで主屋と近接して建っていた舟屋や土蔵が海側へと移設され、
多くの舟屋が二階建に変わっていった。しかしながら、その規模や形態については
伝統が維持され続 けてきた。
それ以後は大きな変化もなく、
同形態・同規模で連続性のある舟屋群の景観が継承され、
現在でも約230棟の舟屋が伊根湾の海岸沿いに連続して建ち並び、歴史的風致を
形成している。
舟屋や主屋等からなる江戸末期から昭和初期にかけての伊根浦の町並みは、
伊根湾や青島及びこれらを囲む漁付林という周辺環境とあいまって独特の
歴史的景観を今日に伝えている。